・非認知能力に興味がある
・非認知能力の伸ばし方を知りたい
・非認知能力が子育てに有用かどうかエビデンスを知りたい
【7つの論文から解説】幼児期の子供の非認知能力を伸ばす方法
以前の記事では、
- 習い事が子どもの将来的な幸福に関与するのか?
- 早期からの習い事に意味はあるのか?
について合計合計20本の論文からエビデンスを提示して解説しました。
前の二つの記事の結論だけ言えば、
・IQと年収、IQと幸福度には相関関係があるが、前提条件として「もともと幸福な人」に限る
・「もともと幸福な人」の条件は人間関係が豊かであることである
ってことだったよね!
そうね!
この記事では人間関係を豊かにするために注目されている
非認知能力について解説するわね!
認知能力と非認知能力の定義
認知能力とは、テストで数値化して評価できる能力のことです。
具体的には記憶力、思考力、計算力、言語力、IQ(知能指数)などを指して認知能力と呼ばれます。
一方で、非認知能力という言葉の定義はとても曖昧ね!
非認知能力は、その類義語として「人間力」や「キー・コンピテンシー」「グリット」といった新たな能力を表す言葉が議論になっていることや、その概念や測定の課題が議論になっている点からも非常に多様性に富んだ、曖昧な考え方だと言えます。
その名称ですら Non-cognitive“ability”なのか、“skill”もしくは“traits”なのかも議論の対象になっています。
「認知能力以外は非認知能力」みたいにふわっとしてるんだね。
何かうまい捉え方はないの?
OECDが2015年に発表したレポートでは、社会情動的スキルとして非認知能力の概念が示されており、それをまとめたものが下の図です。
確かに社交性とか忍耐力、自信など、人間関係を作るには重要そうなワードだね!
では、これらが重要だっていうエビデンスはあるの?
このOECDのレポートのもとになった研究があるので紹介するわね!
非認知能力のエビデンス
非認知能力のエビデンス①注目されるきっかけ:ペリー就学前プログラム
非認知能力が注目を集めるきっかけとなった研究がペリー就学前プログラムです。
この研究を一言でいうと
「幼児に教育をしてIQが高くなれば、年収とか上がるんじゃないの?
という仮説で幼児教育をした結果IQには差がなかったけど、なぜか年収に差が出てしまった。なんでだ?」
という研究ね!
The High/Scope Perry Preschool Project
この研究を行った人物はヘックマンというシカゴ大学の経済学者でノーベル経済学賞を受賞しています。
この研究は、1962年から1967年にミシガン州で、低所得のアフリカ系58世帯の子供を対象に実施されました。
就学前の幼児を教育を受けるグループと受けないグループに分け、教育を受けるグループのみに対して、午前中に毎日2時間半ずつ教室での授業を受けさせ、さらに週に1度は教師が各家庭を訪問して90分間の指導を行いました。
教育を受けたグループの指導内容は、子供の年齢と能力に応じて調整され、非認知能力を育てることに重点を置いて、子供の自発性を大切にする活動を中心に指導されました。
具体的には、子どもが自分で遊びを計画・実践し、「もっと面白くするためにはどうしたらいいかな?」と検討します。
そして教員は見守り、サポートし遊びを面白くするヒントを与える程度の介入に止め、あくまで子どもの自発性を伸ばすように介入しました。
そしてこどもが考えた遊びを毎日復習するように促しました。
この復習は集団で行われ、集団で行われることによって、人間関係の中で重要な社会的スキルを身に着けたとされています。
つまり、「机に座って先生の指導を受ける」みたいないわゆる講義形式の授業ではなかったんだね!
この介入は30週間実施され、就学前教育の終了後、この2つのグループの子どもを40歳まで追跡調査しました。
二つのグループにどんな結果がでたの?
ペリー就学前プロジェクトの結果①IQ
教育を受けたグループの子ども達のIQや学力テストは一時的に上昇しました。
しかし、時間経過とともに教育を受けなかったグループとの差は縮まり、8歳前後では教育を受けなかったグループと大きな差はなくなりました。
つまり、IQに代表される認知能力の上昇はできたけれど、効果は持続しなかったのです。
これは早期教育のエビデンスで紹介した別の研究で同じような結果が報告されていたね!
ペリー就学前プロジェクトの結果②IQ以外
教育を受けたグループと教育を受けなかったグループで長期的なIQには差が出ませんでした。
しかし、差が出た項目もあり、教育を受けたグループの子どもは学歴が良くなり、年収が増え、犯罪を犯さなくなり、持ち家率も上がるという結果になりました。
論文の中では、就学前に学習経験を積み、努力することを覚えると、成人後も新しいことに興味を持ち、知識を得ようとする意欲を示す可能性が指摘されています。
つまり、このプロジェクトで導き出された結論は、教育で重要なのは、忍耐性や協調性、計画力などの非認知能力であるということでした。
教育を受けたグループ | 教育を受けなかったグループ | |
年収2万ドル以上の割合 | 60% | 40% |
逮捕歴が5回以上の人の割合 | 36% | 55% |
高校を卒業した人の割合 | 77% | 60% |
生活保護を受ける割合 | 10% | 10% |
持ち家率 | 36% | 13% |
もともとはIQの違いが二つのグループのこれらの差に及ぼす影響を説明したかったけど、IQには差がなかったために、「IQ以外の能力=非認知能力の差が上の表のような違いにつながった」という結論になったのよ!
ちょっと待った!
つまり、実際に非認知能力が測定されたわけじゃなくて
「認知能力に差がないんだったら、非認知能力が原因なんじゃない?」
くらいのゆるふわな考察ってことだね
そういうことね。
確実なエビデンスとは言えないにも関わらずこの研究の結果は、日本で幼児教育の無償化が議論された際に内閣官房人生100年時代構想推進室の資料でも引用されているわ。
それってどうなんだろうか、、、
非認知能力のエビデンス②ペリー就学前プロジェクト以外のエビデンス
ペリー就学前プログラムが実際に非認知能力を測定していないため、本当に非認知能力の差が収入や犯罪率の差になったかは分かりません。
そこで、実際に測定した研究を集めて、メタ分析(すごく質の高い研究にするための統計)を行った論文があります。
この論文では9000以上の論文から、約200件の質の高い論文の結果をまとめて、「早期に非認知能力を高める教育をすると、子どものその後の人生にいいことがあるのか?」を確かめようとしました。
で、結果はどうだったの?
結論、早期から非認知能力の教育をすることにはいい効果がありそうだけど、断言するほどのエビデンスはないって感じね!
非認知能力の教育を早期から行うことで、
- 学力(Academic achivement)
- 心理社会的成果(Psychsocial)
- 認知・言語力(Cognitive & Language)
- 身体的健康度(Physical health
はいずれも何となく上がりそうだけど、早期から教育することの効果の大きさは研究によってバラバラだから、よくわからないというように書かれています。
研究によってバラバラな理由は、研究の方法や追跡している期間の長さが研究によって違うからです。
この論文ではより質の高い研究が今後出てくることに期待すると書かれています。
つまり、言いたいことは
質の高い研究は進んでいないけど、現段階では
「幼少期からの非認知能力の教育はいいことが多そう」
ということね!
それはよくわかったよ!
でも非認知能力ってさっきのフレームワークの図ではたくさん要素があったよね?
具体的にどの能力が重要なの?
非認知能力の捉え方①相互作用
非認知能力の概念図をもう一度確認してみましょう。
非認知能力の構成要素のうち「どれが子どもの幸せのために特に重要なのか?」という質問自体が、非認知能力を上手に捉えられていない可能性があります。
どういうこと?
「どの要素が」と言っている時点で、無意識に「非認知能力の構成要素はそれぞれが独立している」と思い込んでいるんじゃないの?ってことね!
OECDが2015年に発表したレポートによると、「それぞれの非認知能力要素は互いに関連しあい、単一の要素がポジティブなアウトカムを生起させるというより、組み合わせで考えることが重要」だとされています。
それぞれが相互関係的に存在しているから、独立してある要素だけ伸ばせるようなものじゃないってことだね!
そういうことね!
ただ、組み合わせが重要というのが大前提だけど、そのうえでどの要素が重要かという研究もされているわ!
同レポートによると非認知能力に含まれる心理学的諸概念のうち、人生に良い結果をもたらすための有力なカギとなるのは
- 自己効力感
- 内発的動機づけ
- メタ認知
とされており、別の報告では
- 自己実現・自己高揚・自己保全のためには自制心、グリット、内発的動機づけ、自律性が重要
- 他者との関係性の構築・維持のためには心理理解、共感性、道徳性、向社会的行動が重要
とされています。
知らない単語がたくさん出てきてよくわからないな,,,
これから出てくる言葉も含めてこちらの記事で単語の解説をしています!
非認知能力の捉え方②積み木構造
非認知能力を捉えるには、相互関係的に捉える必要があるというのは分かったよ!
では非認知能力はどうやったら伸びるの?
どうやったら伸ばせるか?
の前にもう一つ、非認知能力の捉え方を知っておく必要があると私は思っているの!
まずは下の図で説明するわね!
Building Blocks for Learning: A Framework for Comprehensive Student Development
この図は、ブルック・スタンフォード・ブリザールという人が描いた上記のレポートに登場する図を日本語に直したもので、非認知能力を積み木に見立てて説明した概念図です。
積み木は下においてある土台がしっかりしていないと上には積み上がらないでしょ?
それと同じように非認知能力も土台が重要であるということを表しているわ!
レジリエンス、好奇心、学業への粘りといった高次の非認知能力は、その土台となる自己認識能力や人間関係を作る能力などが発達していないと身に着けることが難しいとされています。(用語の詳細はこちら)
さらにそれらの自己認識能力などの中位の非認知能力は、人生の最初期に築かれるはずの安定したアタッチメントやストレスを管理する能力、自制心といった土台の上に成立するとされています。
この積み木構造を理解すると、さっき「ペリー就学前プログラム以外のエビデンス」で紹介した論文で、結果がバラついた理由も説明がつくんじゃない?
そうね!
非認知能力の教育の効果が大きかったり小さかったりしたという結論だったけど、もしかしたら
・効果が大きかった研究→参加者がアタッチメントなどの土台がしっかりしていたから、積み木の上の能力も上がりやすかった
・効果が小さかった研究→参加者がアタッチメントなどの土台がしっかりしていなかったから、積み木が積み上がらず効果が出なかった
のかもね!
非認知能力の伸ばし方
非認知能力の捉え方として
・相互に作用するもの
・積み木のように積み上がっていくもの
が大切なのはわかったよ!
さっきの質問に戻るんだけど、非認知能力を伸ばすにはどうしたらいいの?
結論を言うと
・幼少期にしっかり親子関係を安定化させること
・その上で幼児期に子供の意欲を邪魔しないこと
が重要とされているわね!
詳細はこちらの論文で考察されているわ!
非認知能力の伸ばし方①幼児期前半:アタッチメント関係の形成
The review of Research on non cognitive(Socio-emotional) competence
非認知能力の育ちを支える有力なカギは以下の二つだと言われています。
- 発達におけるできるだけ早期(幼児期)の介入
- 自己効力感や内発的動機づけといった、いわゆる意欲を構成する心理学的概念
1の早期介入については、先ほども「ペリー就学前プログラム以外のエビデンス」の項目でも紹介した通り、効果がある程度示されています。
早期ってことは、乳児とか幼児とかなるべく子どもが小さい時が重要ってことだよね?
そんな小さい時に具体的に何をすればいいの?
具体的にすべきことは、さっきも言ったように
「親子関係の安定化」ね!
言い換えると「アタッチメント関係の形成」ね!
The review of Research on non cognitive(Socio-emotional) competence
この論文でも「乳児期、および幼児期の前半は非認知能力の発達の基礎となるアタッチメント関係の形成および安定性が、非認知能力に含まれるコンピテンスそれ自体より重視される」と述べられています。(用語の詳細はこちら)
早期には非認知能力を伸ばそうとするよりも
アタッチメント関係の形成が重要ってことだね!
アタッチメントの安定化が重要な利用は
- 大人の言うことをどれだけ素直に受け入れられるかは、大人と子供の関係性の質に依存するから
- 子供が安心して外界への探索に出られるには、安定したアタッチメントが必要だから
とされています。
安心して色んなものに興味を示して
触ったり、嗅いだり、探索できるのは
「親がいて安心できるから」というのが大前提ということね!
親が子供の安全基地になれているのかが大事ってことね!
アタッチメントに関してはこちらの記事で詳細を解説しています。
非認知能力の伸ばし方②幼児期後半:親が口を出さず見守る
早期、つまり幼児期の前半に安定的なアタッチメント関係を形成した上で、学習意欲の基礎となる非認知能力を育てるということを考えてみると、
幼児期後半に自己効力感や内発的動機づけを育てるようなアプローチが有用だと考えられます。
上記の定義から考えると自分で興味をもって、自分で考えて結果が出せる体験の機会を増やすアプローチが有用ということです。
つまり、
・子どもがやりたいと言ったことはやらせてみる
・親が正解を教えたりして子どもが考える機会を奪わない
といったアプローチが重要ということね!
その場合、幼児期後半の主たる活動は遊びですから、自己効力感や内発的動機づけからなる意欲も、学習に対する意欲ではなくて、より広い、外界の事物や活動に対する意欲と考えたほうが良いでしょう。
要するに幼児期における意欲は「新しいことに挑戦する力」と考えて
正解を教えずに子どもが考えているのをじっと見守り
やりたいと言ったことは満足するまでやらせてみる
ってことだね!
言葉で言うのは簡単なんだけど、実際やるとめちゃくちゃイライラするのよね
実際、育児の現場では「満足するまでやらせる」の難しさが共感を呼んでいます。
まとめ
この記事では非認知能力についてエビデンスを用いて解説しました。
もともとは子どもが幸福になるための習い事とは?という疑問にたいして答えるために非認知能力について解説しましたが、非認知能力を育むためには「親が一緒に過ごしてたくさん遊ぶ」ということが重要だという結論になりました。
非認知能力は認知能力のように教えて伸ばすようなものじゃないということは分かったけど、非認知能力が伸びやすいような親のふるまい方を体系的に示した方法はないのかな?
次の記事では、具体的な「遊び方」「声のかけ方」「環境の整え方」など非認知能力を育てる要素にも重なるモンテッソーリメソッドについて解説します。
そもそもモンテッソーリ教育って何?という方はこちらの記事で解説しています。
また、子育て世帯の方向けに以下の記事も掲載しています。
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